辨 |
コケは、伝統的には蘚苔類(コケ植物・蘚苔植物) Bryophyta の総称。蘚類 Musci・
苔類 Hepaticae・ツノゴケ類 Anthocerotae の三綱に大別されてきた。
今日では、この三者はそれぞれ門として扱われるようだ。
蘚類「マゴケ植物門 Bryophyta」:ミズゴケ・スギゴケ・ヒョウタンゴケなど。茎と葉が分化しており、茎は直立し、ほとんど分枝しない。葉は線状披針形、湿ると放射状に開く。
スギゴケは、広義にはスギゴケ科スギゴケ属 Polytrichum とコスギゴケ属 Pogonatum の総称、狭義にはその中の Polytrichum juniperinum
を指す。 |
本譜には、蘚類から次のものを載せる。
カギカモジゴケ Dicranum hamulosum(鉤葉曲尾蘚)
オオバチョウチンゴケ Plagiomnium vesicatum(圓葉匐燈蘚)
コスギゴケ Pogonatum inflexum(東亞小金發蘚)
ウマスギゴケ Polytrichum commune(金發蘚)
スギゴケ Polytrichum juniperinum(檜葉金發蘚)
ホソバミズゴケ Sphagnum girgensohnii(白齒泥炭蘚)
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苔類「ゼニゴケ植物門 Marchantiophyta」:ゼニゴケ・マキノゴケ・ツボミゴケなど。葉状の配偶体が、地を這う。
ゼニゴケは、広義にはゼニゴケ科の苔の総称、狭義にはその中の Marchantia polymorphia を指す。
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本譜には、苔類から次のものを載せる。
イチョウウキゴケ Ricciocarpos natans(浮苔) |
「ツノゴケ植物門 Anthocerotophyta」:ニワツノゴケなど。
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訓 |
スギゴケの名は、その茎と葉がスギの小枝の形に擬えて。
ゼニゴケの名は、その地を這う配偶体の形を貨幣に擬えて。 |
説 |
寺社の苔庭に利用されるのは、主としてオオスギゴケ Polytrichastrum formosum(Polytrichum formosum) とウマスギゴケ Polytrichum commune。
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誌 |
空山 人を見ず
但だ人語の響くを聞く
返景 森林に入り
復た照らす 青苔の上
(王維「鹿柴」)
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『万葉集』には、11首に詠われる。文藝譜を見よ。
文字としては、苔・薜・蘿を用い、蘿にはサルオガセの仲間を含む。
み芳野の 青根が峰の 蘿席(こけむしろ) 誰か織りけむ 経緯(たてぬき)無しに
(7/1120,読み人知らず)
とあるほかは、すべて「こけむす」と用い、長い時間の経過を表すのに用いられれる。
何時の間も 神さびけるか 香山(かぐやま)の
鉾榲(ほこすぎ)が本に 薜生すまでに (3/259,鴨君足人)
結へる紐 解かむ日遠み 敷細(しきたへ)の 吾が木枕は 蘿生しにけり (11/2630,読人知らず)
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『古今集』に、
吾君はちよ(千代)にやちよ(八千代)にさざれいし(細石)の巌と成て苔のむすまで
(よみ人しらず)
西行(1118-1190)『山家集』に、
し(死)にてふさん こけのむしろを 思ふより かねてしらるゝ いはかげの露
(無常の歌あまたよみける中に)
くま(熊)のすむ こけのいはやま おそろしみ むべなりけりな 人もかよはぬ
こけうづむ ゆるがぬいは(岩)の ふかきね(根)は 君がちとせを かためたるべし
山ふかみ こけのむしろの うへにゐて 何心なく な(啼)くましら(猿)かな
『新古今集』に、
岩まとぢし氷もけさはとけそめて苔の下水道もとむらん (西行法師)
ときはなる山の岩ねにむす苔のそめぬ緑に春雨ぞふる (藤原良経)
常磐なる松にかかれる苔なれば年のをながきしるべとぞ思ふ (紀友則)
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春雨のこしたにつたう清水哉 (芭蕉,1644-1694。「苔清水」)
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春ひと日雪とけきゆる青蘚の林のにほひ日を浮けにけり
(島木赤彦『馬鈴薯の花』)
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